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詩人と少年

 

 

昔、言葉を買う詩人がいたといいます

国から国を旅して

自分が知らない言葉をお金で買うのです

詩人がある国を訪れたときのことです

 

詩人の事を聞きつけた少年が

お金欲しさに

毎日のように詩人を訪ねてきました

 

少年は、おじいさんから教わった

その土地に伝わるめずらしい言葉を

少し知っていたのです

そして思い出すたびに

詩人に言葉を買ってもらいました

 

でも、少年の知っている言葉は

すぐになくなってしまいました

 

困った少年はどうしようかと考えました

そして

町中のお年寄りから

めずらしい言葉や忘れ去られた言葉を

一生懸命聞き出したのです

 

そして、一つ言葉を見つける度に

詩人のもとへ走りました

 

 

詩人はいつもやさしい笑みを浮かべて

「ああ、それはいい言葉だね」

と言って

少年にお金をわたします

 

そして自分が渡り歩いた

いろいろな国の事を

語って聞かせるのです

 

少年と詩人は毎日のように

言葉の取引をつづけました

 

 

そして少年はだんだん詩人の事が

好きになったのです

 

最初お金が目的だった少年は

いつしか詩人の話を聞くのが

目的になっていました

 

言葉が見つからなくても、

詩人に会いにいきました

 

ある日少年がこない日がありました

詩人もまた、

少年が好きになっていました

 

少年がこないのでさみしくなったのです

少年から書き留めたノートの言葉を

何回も復唱しました

 

そしてノートをポケットにしまって

少年を捜しに町へと出かけたのです

 

少年の家はすぐに見つかりました

 

ドアの隙間からそっと中を見ると

病気のお母さんの看病をしている

少年の姿がありました

 

少年は詩人から聞いた

いろんな国での出来事を

詩人そっくりに、話しているのです

 

 

 

「お母さん、そこの海にはね」

「イルカという賢い動物がいて」

「背中に人間の子供を乗せて泳ぐんだって」

 

「それはどんな船より速いんだよ」

 

 

少年はお母さんの枕元で次々と話します

お母さんは夢みるようにうなずいて

少年の話を聞いていました

 

そして言いました

「おまえ」

「いいお話をたくさん教えてもらったんだね」

 

「その詩人さんはいい人だね」

 

 

少年はまるで自分がほめられたように

ぽっと頬を赤らめました。

うれしかったのです

 

 

詩人は胸が熱くなって

そっとその場を離れました

 

自分はあの少年の足元にも及ばない

そんな思いが胸をかすめました

 

詩人は町で果物やパンを

いっぱい買って帰りました

今度少年が訪ねてきたら、

渡そうと思ったのです

 

何日かして少年はやってきました

お母さんが回復したようです

詩人は知らぬ顔をして、

少年の暮らしを訪ねました

 

少年は、家のこと、お母さんのこと

そして亡くなったお父さんの事を、

詩人に話しました

 

少年の話はとても上手で、

それは詩人が町で

こっそり見た光景そのものでした

 

少年は詩人になっていたのです

 

詩人は嬉しくなって

「君は話がうまいね」

「おじさんよりうまいよ」

「きっと君は将来立派な詩人になれる」

 

そういいながら

少年のために買って置いたクッキーを

少年のまねをして

口いっぱいにほおばりました

 

詩人は少年になっていました

 

 

 

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