ヒューマニスト45
<その人の指向性、価値観、生き方、考え方>


<小嶋光信>

 

(フロントランナー:上)地方の赤字路線 再生請負う(2013/06/22朝日新聞)
■小嶋光信(こじま・みつのぶ)さん(68) 地域公共交通総合研究所理事長
「この10年ほどで赤字の地域公共交通の大半がさらに厳しい経営状態になる。50%くらいの路線や会社は潰れるかも知れません」のけぞるようなことを口にする。「私の予測はだいたいその通りになるんです。でも、こればかりは当たってほしくないですね」毎年、各地で廃止されるバス路線の「全長」は、北海道の北端から鹿児島までの直線距離を超える約2千キロに及ぶ。ローカル鉄道も多くが青息吐息だ。このままの勢いで人口減少と地域の疲弊が続けば、予測が現実にならないとも限らない。そんな地域の足を守ろうとこの4月、シンクタンク「地域公共交通総合研究所」を設立し、理事長に就いた。再生のノウハウを提供し、政府への交通施策の提言も視野に入れている。「再生請負人」としての手腕は折り紙付きだ。これまでに再生させた公共交通は、三毛猫の「たま駅長」で有名になった和歌山電鉄貴志川線、中国バス(広島県)、松阪航路(三重県)など10社にのぼる。乗客の減少で大手電鉄がさじを投げたローカル線。労使関係の悪さからストライキが相次ぎ、乗客に見放されたバス会社。開業前の需要予測が過大で経営破綻(はたん)したフェリー会社。だれも拾わない「火中の栗」ぞろいだ。

岡山市などで路線バスと路面電車を運行する「両備グループ」の代表。55のグループ企業と、従業員約8500人を率いる。ただでさえ忙しいのに縁もゆかりもない会社や路線のために奔走する。地方の一経営者が、どうしてそこまで入れ込むのか。転機は50代に訪れた。三百数十年前に岡山藩主を支えた重臣、津田永忠(ながただ)。その人生をたどり、顕彰する会が地元の経営者や文化人の間でつくられ、責任者になった。業績を調べるうち、新田開発の大干拓事業を進言した永忠が、個人で豪商から巨額の借金をして資金を用立てたエピソードを知る。藩の財政難を理由にした反対論を押し切るためだった。将来の希望もなくただ生きているだけの民に、農地と夢を与えたい。そのために何万両の借金をして事業を断行し、「治世とは、民の苦しみを救うことにござる」という言葉を残した永忠。それに比べて自分はなんだ――。若干の仕事をして社会の役に立っていると思っている小ささを突きつけられた。「再生を請け負うようになったのは、それからです」
 
より多くのケースに対応するために立ち上げた研究所では、交通問題や金融に詳しい大学教授らの知恵も借り、依頼を受ければ会社の経営分析から再生策の立案までを手がける。請求するのは実費だけ。すでに1社の要請を受け、再生計画進行中だ。「誰だって生まれてから免許を取得するまでは交通弱者ですし、年を取ればまた交通弱者になります。公共交通は人生の始めと終わりで必ず利用する、社会に欠かせないツールです。だから公共交通なんです」文・神田誠司

http://digital.asahi.com/articles/TKY201306180216.html

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(フロントランナー:下)大都市だけ栄えればいいのか?
――10社もローカル線・航路を再生しました。どんな手だてを講じているのですか。
参考にしようと先進諸国の公共交通を調べて驚きました。特にヨーロッパの国々では「公設民営」という手法が一般的だったからです。固定費として経営を圧迫する鉄路や駅、車両などは行政が所有、あるいは設置し、運行する経費だけを民間が分担するビジネスモデルです。フランスでは国民が移動する権利を法律で明文化しており、自治体は公共交通を整備する責務を負っています。これらの国々はマイカー社会になって、すべてを民間任せでは公共交通が立ちゆかなくなることを見越しているのです。民間にすべてを任せてしまっている日本の方に無理がある。地方の公共交通を再生するには公設民営しかない、と思っています。
――和歌山鉄道貴志川線の再建でも公設民営の考え方を採り入れていますね。
貴志川線の場合、沿線の和歌山市と紀の川市が、路線存続のために鉄道用地を南海電鉄から購入し、その費用は全額を和歌山県が補助しました。松阪航路(三重県)も、松阪市が船舶、港湾施設、駐車場を設置、管理し、それを無償で貸与していただく公設民営を条件に両備グループで引き受けました。しかし、公設民営は再生の土台であって、もちろん収支をチェックし、徹底的に無駄を無くし、コストダウンを図ることは欠かせません。それと、どこの再生でも必ずお客様からの「苦情簿」と「事故簿」に目を通します。苦情簿を見れば「車内が汚い」「いつも遅れる」「言葉がぞんざい」などサービスの改善点が、事故簿からは安全運行の問題点が見えてくる。そのうえで乗客増に取り組みます。

■「楽しい」が大事
――和歌山電鉄では招き猫になった「たま駅長」のほかにも、「たま電車」「いちご電車」などユニークな電車がありますね。
電車はすべて「乗ってみたくなる車両をつくってください」と、岡山出身のデザイナー、水戸岡鋭治さんにお願いしてできたものです。和歌山は紀州、「木の国」です。その木をふんだんに使った内装にし、温かみのある素晴らしい電車になりました。再生に取り組む時に、お涙ちょうだいみたいな話をしたって、誰も電車には乗ってくれません。苦しいことを並べ立てるんじゃなく、どうやったら「楽しいね」「面白そうだね」と思っていただけるかを考えるようにしています。
――乗客増の取り組みはほかにもありますか。
 「乗ってみたい」と思ってもらえるよう、沿線の文化や歴史を紹介するイベントを開催しています。そのとき力を貸してくださるのが住民の方たちです。和歌山電鉄の場合、「乗って残そう貴志川線」というスローガンを掲げ、手弁当でイベントなどで一緒に汗をかく会員さんが約2200人。本当にありがたい存在です。
――心を配っていることはありますか。
公共交通は地域をよく知っている人たちが経営を担うべきです。経営のノウハウを指導する外人部隊は極力少ない方がいい。両備グループが事業を引き継ぐ場合、岡山から送り込む幹部は3〜4人までと決めています。
――そもそも地域公共交通が苦しい理由は。
都会の人はすぐに「どうせ地方は放漫経営をやっているんだろ」「努力が足りない」と言いますが、圧倒的に大きな要因はマイカーの増加と人口減少で乗客が激減したことで、地方ほどその傾向は顕著です。さらに衰退に追い打ちをかけたのが2000年以降の鉄道やバス事業への国の規制緩和です。「競争を持ち込めば、運賃も安くなり、サービス向上につながる」という狙いでしたが、地方では完全に裏目に出ました。路線バス会社の収益の柱だった高速バスの乗客は、規制緩和で他業種から参入した格安のツアーバスに奪われました。それまで路線の撤廃には国の「許可」が必要で、代替交通機関がない場合は認められませんでしたが、事前の「届け出」だけで済むようになり、路線の廃止や縮小は一気に加速しました。
■抜本的改革を
――政治に言いたいことは。
お年寄りや学生たち交通弱者が移動できなくなれば、過疎や衰退に拍車がかかります。一部の大都会だけが栄えて、残りは荒涼とした国になっていいのでしょうか。公共交通をどうするかという問いは、どのような社会、どのような国を目指すのかということにつながります。韓国でもマイカーから公共交通へのシフトを促しています。都市部では3人乗り未満の車に課金し、バス専用レーンを設けてマイカーを規制しています。政治家の皆さんには、規制緩和の弊害を検証し、すべての人が安心して暮らせる交通施策への抜本的な転換をお願いしたいですね。
 ――やってよかった、と実感する瞬間は。
 お年寄りに「おかげで路線が残ることになった」と手を合わされることもあります。同時に「でも、逃げないでね」と言われる。気が引き締まります。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201306180217.html

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(フロントランナー)小嶋光信さんプロフィル
★1945年、東京都で生まれる。ビール会社や製粉会社を経営する祖父、銀行員から会社を興した父の影響で、幼い頃から事業家にあこがれる。
★慶応大学で経済を学びつつ、「学生起業家」としてキャンパス内の貸しロッカー、家庭教師派遣、学生向け世界一周旅行の企画を手がける。
★73年、大手銀行に勤めていた28歳のとき、両備グループ代表だった義父から旧両備運輸の再建を打診され、銀行を退社。同運輸常務に就任し岡山に転居。30〜40代=写真=はグループ企業社長を歴任。
★99年、両備グループ代表に就任すると、「忠恕(ちゅうじょ、真心からの思いやり)」を理念に「社会正義」「お客様第一」「社員の幸せ」を経営方針に掲げる。「これまで一人の社員もリストラしたことはありません」★2005年、和歌山電鉄社長に就任し、翌年開業。その9カ月後、「たま」に駅長を発令(今年1月には社長代理に出世)。貴志川線再生の取り組みが認められ、09年には国土交通大臣から地域公共交通活性化・再生優良団体として表彰される。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201306180218.html

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