ヒューマニスト29
<その人の指向性、価値観、生き方、考え方>


<伊丹万作>

 

だまされることも罪 〈伊丹万作の伝言:上〉(2012/08/12朝日新聞)
さて、多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。(略)日本人全体が夢中になって互にだましたりだまされたりしていたのだろうと思う。(略)だまされるということもまた一つの罪であり、昔から決していばっていいこととは、されていないのである。(略)「だまされていた」といって平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。いや、現在でもすでに別のうそによってだまされ始めているにちがいないのである。(「戦争責任者の問題」 2010年、ちくま学芸文庫「伊丹万作エッセイ集」から抜粋)

■原発問題への反省 

戦時と同じ7月29日、夕暮れ時の国会議事堂前。脱原発の声を上げ、道いっぱいに広がる人の渦に、吉村栄一さん(46)がいた。
東京在住のフリーライターで編集者。音楽家の坂本龍一さんたちと反原発イベントを企画する。昨年8月、その仲間と「いまだから読みたい本―3・11後の日本」(小学館)を出版した。きっかけは一つのエッセーだ。「戦争責任者の問題」昭和初期に活躍した映画監督、伊丹万作が書いた。同じ映画監督の道を歩んだ伊丹十三の父。「無法松の一生」など人情味あふれる脚本と、鋭い社会批評を残した。「戦争責任者」は敗戦翌年の1946年8月、亡くなる1カ月前に映画雑誌に発表した。〈だますものだけでは戦争は起(おこ)らない〉〈だまされるということもまた一つの罪〉戦中は結核にかかり、戦争賛美の映画こそつくらなかった。ただ、望んだのは国の勝利だけ。日本人全体が夢中でだまし、だまされあった。自己反省がなければ過ちを繰り返す――。

福島第一原発事故から数週間後。吉村さんは、ツイッターで紹介されているこの文章を偶然見つけた。敗戦から六十数年。深刻な原発事故を経験した日本社会に、「安全神話」にだまされた、という悔いが広がる。戦争を原発事故に置き換えて読むと、3・11後の今と重なった。14基の原発を抱える福井県出身。幼い頃、田舎に現れた原発はSFの産物のようだった。中学生だった79年、米スリーマイル島の原発事故が起きる。「福井もババひいてたのかな」。頭をかすめたが、事故は遠い国の出来事だった。もんじゅのナトリウム漏れ、JCO臨界事故……。国内で事故が相次いだ90年代、原発問題はだんだんリアルに。2007年の新潟県中越沖地震の後は、原発再稼働反対の署名を呼びかけたこともある。だが、メルトダウンまでは想像していなかった。万作の言葉が胸に落ちた。自分もだまされていた。そして、誰かをだましていたかもしれない、と。この夏、野田政権は大飯原発の再稼働に踏み切った。それでも首相官邸前で、路上で、人々は、「原発ノー」の声を上げ続ける。動員されるのではなく、自分の意志で。始まったばかりだが、吉村さんは「この変化は希望だ」。翻訳家の池田香代子さん(63)は昨夏、ブログで「伊丹の予言はあたった」と引用した。今だから響いたのでは、と思う。著作権切れの文学作品が読めるネット図書館「青空文庫」のアクセスランキングでも、500位圏外から事故の1カ月後には6位に急浮上した。しかし、と池田さんは言う。「もうだまされない」と思うあまりか、政府と同じ意見を一つ言うだけで「御用」とレッテル貼りする動きも目立つ。「大切なのは情報を集めて自分の頭で考えること。でも、それが本当に難しい」だまされることも罪、と書いた伊丹万作。戦後67年、その伝言を今、胸に受け止める人々を訪ね歩いた。(この連載は多知川節子が担当します)
     ◇
 〈伊丹万作〉 1900(明治33)年、松山市生まれ。旧制松山中学時代、後に俳人となる中村草田男らと回覧雑誌「楽天」を創刊。卒業後に上京し、「池内愚美」の名で挿絵画家として活躍した。友人の映画監督・伊藤大輔の勧めで、28年に脚本家・監督デビュー。笑いの奥に風刺を利かせた作風で、代表作に「国士無双」(32年)、「赤西蠣太」(36年)など。病床で脚本を手がけた「無法松の一生」(43年)は「人力車夫が軍人の妻に恋心を抱くのはもってのほか」などの理由で戦中と戦後、検閲でカットされた。46年9月死去。長男は映画監督の故・伊丹十三、長女ゆかりさんは、作家大江健三郎さんの妻。
http://digital.asahi.com/articles/OSK201208110273.html

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