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2006/10/12 最後の砦そして幻のシャーウッド

3年前の様子

現在の様子

 

ちょっとさみしいメールが来ました。「いよいよ私が最後になりました」天王寺美術館の前の路上に暮らす友人からのメールです。電気設備を持たない彼からは数ヶ月に一度ネットカフェからメールが入ります。5年前になるでしょうか、彼と知り合ったのは。当時美術館から新世界へとつながる陸橋の上は端から端までずらっと路上生活をする人達の小屋やテントが立ち並んでいました。包丁研ぎをしている人、廃材で彫刻を作っている人、こつこつと詩を書いている人、ひたすら眠っている人、多種多様な人達が日雇い労働や空き缶を集めたりして暮らしていました。

中でもひときわ目立つ小屋があってある時「こんにちは」と小屋の住人に声をかけました。小屋全面に貼られた反戦ポスターや叫びのような詩句の印象とは違い、中から柔和な顔をした人が現れました。「やあ、どうも」極端に人見知りするらしい彼は頭をかきながら精一杯の返事をしてくれました。こちらもどぎまぎして最初の会話は忘れましたが以来、ずっと親交を暖めて来ました。数ヶ月に一度ぐらいですが缶ビールと缶詰を手みやげに彼の小屋を訪ねるようになって5年。春夏秋冬を思いっきり感じられる彼の2畳ほどのマイホームは僕にとっても居心地のいい空間になりました。小さな空間にはちゃんと原稿を書ける机もあって、4人ぐらいが座れるスペースもあります。この都会のど真ん中で電気もガスも水道もない生活。いくら慣れがあるとはいえ大変に違いありません。

 

その彼から今度の15日に「通天閣あおいでお茶の会」をするとの通知。読めば「ご近所みんな出ていかれ私1人となりました。この機会に再出発するつもりです」と書かれています。この数年間度重なる大阪市の嫌がらせにもめげず頑張って来た彼も限界を感じたようです。彼らしいユーモアで「私の小屋でお茶会します。最後の野宿小屋のオープンハウス。珍しい開閉式屋根のフラミンゴが見える家です」確かに彼の家からはフラミンゴが見えます。小屋の下は天王寺動物園なのです。彼の小屋は僕にとっては新世界の「最後の砦」のような印象があります。警官の横暴。酔っぱらったサラリーマンの暴行。心ない学生の襲撃など命の危険に幾度か脅かされながらの生活。めったに愚痴を言わない彼が一度ぽつりと言った言葉があります。「人間ってなんなんでしょう」

十数年前までは美術館、動物園に続く小さな森がありました。ある時大阪市が花の博覧会を開くと言う口実で森を全滅させたのです。森に暮らす野外生活者を追い出すための口実でした。開かれた博覧会は口先だけのなんの内容もない催しで、後には現在の無味乾燥の有料公園ができました。あまり利用客のない公園です。あの小さな森があってこその美術館だと言うのに。確かに森には浮浪者らしき人も住んでいましたが、彼らは森を掃除したり子供を守ったりして、静かに暮らしていただけ。暴力行為や犯罪などとは縁遠い人達でした。時々見た目はぎょっとするような人もいましたが、話せばなんとも人間的な人。僕にはロビンフッドの物語に出てくるシャーウッドの森だったのです。情緒あるものを何もかも取り壊しコンクリートとフェンスに仕切られた空間を作って何が美しい大阪、美しい日本ですか。

野宿小屋の彼「橘 安純」さんの小屋は天王寺美術館から新世界に続く陸橋の上。お茶会は午後一時からだそうです。来訪先着20名に限定粗品進呈?などとも書かれていますので、美術館や動物園、串カツを食べに近くへ行かれた方は覗いて見てください。

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2006/05/16 別れの理由

 

人は一回きりの人生の中でいったいどれくらいの別れを経験するのでしょうか。愛した人との離婚や愛する人との別離。愛犬や愛猫との死別。父、母、祖母、祖父、友人、知人との死別。個人的に振り返っても多くの別れがありました。でも死別はいたしかたない事ですが、生き別れにはそれなりの理由があります。

離婚するには結婚するときの2倍のエネルギーがいると世間で言われていますが、僕自身の体験ではその通りでした。愛し合って一緒になったのにどうして別れるのか?相手を知らなさすぎたのか、それとも相手が変わってしまったのか、いや自分の方が変わったのか、離婚に至る理由や原因は複合的でややこしいものですが大抵の場合悪いのはお互いさま、ハーフアンドハーフだと僕は思っています。

3歳から6歳ぐらいの間、父親に連れられて度々地方を訪れました。何故だか分からないけど旅役者の一行に混じって旅をするのです。おんぼろトラックの荷台に舞台道具や化粧も落としていない役者さん達と一緒に積まれて町や村をまわるのです。父はその劇団の座長と親しいようでした。普段から奇行の多い父でしたから別段不思議にも思わずその頃は珍しい体験にただおろおろしていました。いたずら好きの父はわけもわからない僕にカツラをかぶせて舞台に押し出した事もありました。小さな刀をもってうろうろする姿は絶好の笑いのネタでやんやの拍手喝采。僕はただ恥ずかしくて最後には泣き出す始末で無茶苦茶な父を恨みました。

時は流れて恨みも劇団の記憶も消えた頃、母から思わぬ事を聞きました。「あの劇団の座長は、お父さんのお母さんなんだよ」「・・・」なんかあるとは思っていましたがまさか父の母親とは思いませんでした。そのような言葉や振る舞いを見たことがなかったからです。中学に入って世間の理屈が少しわかる歳になった僕に母はいきさつを話してくれました。「お父さんが今のおまえぐらいの時に祖母は駆け落ちをしたんだよ」「それも町に巡業に来ていた旅役者と」当時は普通の離婚でさえ世間から白い目で見られる時代でしたから、祖母の行動は新聞沙汰にまでなったそうです。詳しく聞けば祖母の夫、祖父はめずらしいぐらいのエゴイストで祖母は逃げるか死ぬかしかないところまで追いつめられたそうです。そして意を決して旅役者の人と逃げてその後その劇団の座長になったのです。鬼のような祖父から逃げるためだったらどんな苦労も世間の目もいとわないと言うぐらい激しい決意だったようです。子供を捨ててまで逃げなければならない悲惨。胸がつまります。

母は父と結婚してからその話を聞いたそうですが、実際に祖父と暮らした経験のある母は「世の中には絶対に我慢できない人間がいるものだよ」と祖母をかばうそぶりを見せていました。確かに僕自身数回会ったことがある祖父は子供心に殺してやろうかと思うぐらい我慢のできない人間でした。あんな奴のためにえらい目に遭わされつづけるなら死んだ方がましだし、死ぬより逃げる方がましと言うのはもっともです。結論を言うと祖父は87歳まで生きましたが、悪どい性格はあらたまるどころかますますひどくなって第二第三の犠牲者をだしてこの世を去りました。地獄行きは間違いのないところです。

とはいえ祖母が駆け落ちした後の父の人生は最悪で幼い弟と妹の世話をしながら学校へも満足に行けず一時は逃げた母を憎悪したそうです。逃げた理由を分かっていた父はその後憎しみは解いたようですが、前述の旅役者の事、座長の祖母との関係はとても複雑なものだったようです。僕を連れて母親に会いにいくものの会えば長年のつらい思いが甦って、素直にお母さんとは最後まで呼べなかったようです。この祖母と祖父の別れに限ってはハーフアンドハーフではありません。祖父がほとんど悪いのです。

あの時代の日本。男尊女卑が当たり前の時代においてはどれだけの女性が理不尽な我慢を強いられて来たでしょう。偏った道徳観。世間体と言う恐ろしい足かせ。兄弟、親戚、子供・・・悪い男と縁を結んだ女性は悲劇以外のなにものでもない時代だったと思います。時代が変わって現代の社会においても離婚するためには相当なエネルギーが入ります。世間体や生活の不安から泣き寝入りをせざる得ない女性は今でも結構いると思います。女性の権利が拡大され女性の生活力がついた今、首を傾げたくなるような離婚も増えてはいますがまだまだ男女のヒューマニズムが未熟な日本では女性が割を食っている場合が多いような気がします。(つづく)

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2006/03/17 偽装問題

 

去年からつづく様々な社会問題。ライブドア、BSE、建築強度偽装、相次ぐ政治家の不祥事・・・やりきれない思いをされている方は多いのではないでしょうか?堀江氏や姉歯氏がクローズアップされた時、これは氷山の一角だと誰でも思ったに違いありません。なぜならこれらはどう考えても1つ1つ固有の問題ではなくて同じ根っこから生まれた同次元の問題だと思われるからです。ライブドアは金融システムの偽装ですし、BSEは国家の食に対する安全の偽装、建築は技術者の良心の偽装ですし、政治家の腐敗は志の偽装です。全ては間違った競争主義、拝金主義、利益優先主義の結果です。そして次々と明るみに出る情けない事件は資本主義の悪い部分の露呈だと思うのです。何故なのかはわかりませんが、資本主義=自由主義=民主主義みたいな錯覚と混沌が今の日本にはあります。確かに共産主義や独裁国家に比べれば自由度は大きいのですが、かといって民主主義とは違います。

 

資本主義とは経済最優先の世界です。資本主義における自由とは経済における自由です。(言論の自由は憲法で保証されているのにもかかわらず、口に出せない言葉もあります)多くの意味で国も個人も経済力が強いほど自由度も大きい事になりますから、経済的弱者にとっては真の意味の自由とはほど遠い世界となります。そして資本主義社会における民主主義とは、これもまた経済の強弱が大いにものを言う世界、ほんの一部の経済的強者がある意味社会を仕切ってしまう世界、民主とはほど遠い世界です。

 

こう考えたらどうでしょう。もし、最初に民主主義と言う強力なコンセプトがあって*どんな職業であっても、どんな生き方であっても相互にそれを認めあい、あるいは話し合って是正するような世界が確立されているとします。そしてその世界の中から*物欲の強い人もいることですし、お金も自由に儲けていいことにしましょう。そんな考え方の中から生まれた資本主義ならちょっと違うことになります。何故ならお金儲けは1つの選択だからです。金持ちは物をたくさん買えるかも知れませんが、誰もそれを羨ましがりませんし(同じ目的の人は別にして)誰もそれを否定もしません。もともと人間の価値観は千差万別ですから。

 

お金で買えるものより、お金で買えないものの中に楽しいこと、魅力的なことがいっぱいあるような世界なら(そして、そんな感受性と価値観を持てるような社会なら)あえてお金儲けに盲進する人は案外少ないような気がします。今の社会の根本的欠点は先に資本主義ありきだからです。お金のない者は生きる権利まで剥奪されます。(江戸時代ならともかく科学が発達してこんなにモノが余っていてもです)ならば、選択の余地なく人はお金儲けを第一義におかなくてはなりません。たとえそれが目的ではなく積極的になれない人であってもです。いやおうなしなのです。一部の天才的な芸術家や発明家は別ですが、好きなことをやって結果としてお金がついてくればいい・・・なんて考えで生きるのは危険すぎます。おそらく10%ぐらいの人がそんな危険な生き方をしてるような気がします。そしてまた10%ぐらいの人が、ええいもうお金さえ儲かったら何をしてもいいや見たいな感じになっています。最初に書いた偽装の面々です。

 

そして大多数、80%の人はこつこつとこの資本主義の掟に従って生きているのではないでしょうか。多くの人は悪いことをしたり人を押しのけて迄お金を得ようとは思っていないはずです。なのに、お金第一義で生きなければならない。他に生きる価値を見いだせない。そして、それゆえ何かの出来事で歯車が狂った場合、どう生きていいか分からなくなる・・・先進国の中で自殺者が群を抜いて多いのは、お金儲け以外の価値観を喪失してしまったつけではないでしょうか。それにしても政治家や教育者、医者など本来人のため、よりよい社会のために我が身を張って生きなければいけない人々の中から俗悪な犯罪者が続々とでるような社会はどう考えても腐敗しています。みんな人の子だからと言ってしまえばそれまでですが、そんな人が社会をリードしたり人の命を預かるような職業には就いて欲しくないものです。

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2006/01/24 女性の魅力

 

「ストリートオブエンジェル」と言う映画を見てはじめてバイ・リンと言う中国人女優を知りました。仕草、表情のひとつひとつが魅力的でした。それから「北京の2人」を見ました。リチャードギアと共演したこの映画でも彼女はひかっていました。この女優を見て感じるこの気持ちは一体なんだろうと考えましたが分かりませんでした・・・・最近チャン・ツィイと言う女優の映画を見ました。今世界が注目する女優の1人です。最初見た映画は「グリーンディスティニー」身のこなし、声、表情、全てが魅力的でした。あのバイ・リンに感じた時と同じ感覚です。それでやっと分かったのです。2人の女優はともにもっともアメリカ的なハリウッドで活躍していますが、中国女性の美しさを何一つ失ってないのです。女性の魅力は、その国その民族その文化に培われた固有の伝統がバックボーンにあってこそにじみ出るものだと。

 

そう考えてみると今のあまりにもアメリカナイズされた日本に一番欠けているものが伝統美ではないかと思ったのです。流行の衣服に身を包み、流行の化粧、流行のバッグ・・・インターナショナルな今の時代それはそれでいいと思うのですが、心や身のこなし、感性だけは日本のよき伝統を残して欲しいのです。日本には中国やヨーロッパに負けない歴史と文化があります。世界に誇れるものはたくさんあります。内面に日本人としての核があればどんな文化を身につけようと日本女性の魅力はにじみ出ると思うのです。心の中心をなくしてしまったらそれはもうマネキンです。これは言い過ぎですが、魅力は半減します。流ちょうな英語を話せても日本語が美しくなかったら変なのです。日本国内でも各地それぞれの伝統文化があります。旅行先でその土地の言葉が少し混じった会話を耳にすると素敵だなといつも思います。そこにしかないものその人にしかないものが一番大切なものです。

 

女性の魅力って書きましたが、もちろん男性も同じです。長い長い風土の記憶と綿々とつながる記憶の遺伝子を大切にしたいものです。

 

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