夢と困難に満ちた二人の冒険への旅立ち(2)


■この町を創ったのは一体どんな民族?

その辺りには巨大な彫刻のある石柱や祭壇が散在していました。それらの表面には顔や動物や人の姿、碑文等が表情豊かに刻み込まれていました。そして木々の間からはピラミッド型をした建物が突き出していましたが、その周囲にある粗石や潅木のためにはっきりとは見えませんでした。あちこちに階段・台地状の構造物・建物・石垣等の遺跡があって、木の根や石の裂け目から生じている蔓のために破壊されていました。見知らぬ神々の姿かと思われる動物像が建物の正面から剥がれ落ちていました。この遺跡<コパン>は明らかに優れた芸術的で知的な業績を示していました。スティーヴンズとキャザーウッドはその崩れ落ちた遺跡の中に何とも言えない神秘を感じました。

「この町を建てたのは一体どんな民族だったのだろう?」とスティーブンズは記しています。「アメリカには野蛮人が住んでいたと言うが野蛮人にはこんな建築は出来ないし、石にこんな彫刻など出来ない・・・生命を装飾する彫刻・建築・絵画などあらゆる芸術がこの生い茂った密林の中に繁栄していた。

弁舌家・先史・政治家・それに美と栄光とが、かってこの地に存在し、やがて過去のものとなったのだ。

■謎はより深く・・・

そして、今日では、こうしたものがあったことを知る人もなく去にあったものを語る人もいない・・・」「町は荒廃していた・・・それは大海原のまっただ中に浮かんだ、帆柱がおれ、船名も読めないほど古ぼけ、乗務員も死滅し、何処から来たのか誰も分からず、どれぐらい長く航海し、どんな原因で遭難したのかわからない帆船のように、我々の行く手に横たわっていた・・・その町の住民のことは、船の構造からその乗務員を類推すると同様な幻想的な手段で考えるしかないが、多分、全く分からないだろう・・・全てが神秘的で暗黒だ。不可解な謎だ・・・・」スティーブンズは不安定な政治情勢のなかで、コパンの遺跡を発掘する権利を得るために遺跡のある土地を買うことに決めた。スティーブンズは土地の所有者にこの遺跡の町に関心を持つ理由と意図を詳しく説明した。土地の所有者には密林の中のわけの分からぬ彫刻や石造りの台地が散らばっている土地などは無用なものだったので、交渉は成立した。スティーブンズとインディオの労務者達はマチューテを携え測量テープやコンパスを持って測量したり地図をこしらえたりするために、遺跡にまとわりついている草木を払った。


■この地の全てが処女地だ!!

一方キャザーウッドの方も、ぬかるみの中でいろいろ重要な発見をした。「この遺跡を探検する面白さは筆舌に尽くせない」とスティーブンズは回想している。「この地は全く知られていなかった。案内書もなければ案内人もいない。この全部が処女地だ。前方10メートルも見えないので、次に何にぶつかるかわからない。ときどき立ち止まって遺跡の表面を覆う枝や蔦を払いのけた。・・・・・台地から一部が突き出している彫像があった。私は息をのんでかがみ込んだ。目・耳・鼻・手・足が土の中から現れてきた。私は折れた耳を手にとった。

美しい像だ。密林の厳粛な静けさを木の上で戯れる猿とオウムのさえずりだけが破っていた。廃墟の閑寂とそれを包む神秘、その全てが大変興味をそそるものだった」そうして次第にコパンの輪郭が荒廃した土地から現れてきた。ほぼ南北に向いた軸がある。この町はリオ・コパン川堤の西側にあり、一カ所の大きなアクロポリスとその近くの五カ所の広場及びその外側のいくつかの地区からできている。主要な建造物はアクロポリスの上に建てられている。


■エジプトの最上の彫刻に匹敵するすばらしさ!

アクロポリスは一番高いところまで38メートルはある。この人口台地の中央に大きなピラミッドが建ち階段がその平坦な頂上までつづいている。アクロポリスの北東の隅の近くにコパンの創立者達の残したもっとも壮大な業績・・神聖文字階段の神殿がある。それは9メートルの幅で20メートルの高さの、横側に装飾的なそりのある63段の階段をそなえた段状のピラミッドだ。その階段の1段1段の石に神聖文字が彫られていて階段全部ではおよそ2.500字にも及ぶものである。

そして神聖文字の階段の隣には両側が傾斜した石壁で囲まれた四辺形の石床の球技場があった。そして続く広い庭には偶像や人の形や華麗な装飾のモチーフや神聖文字の碑文などの深い浮き彫りがたくさんある、数々の石碑や祭壇があった。スティーブンズはこうしたたくさんの偶像はそもそも歴史上の出来事やその年月日を記念してたてられたと考えたが、その考察は正しかった。彼はこう記している「それは出来映えにおいて、エジプトの一番出来のいい彫刻に匹敵する。実際に現代の最上の道具を使ってもこれ以上うまく刻めない」

スティーブンズとキャザーウッドは、密林の茂みからコパンの秘密をあばくまでにおよそ2週間かかった。彼らの頭の中はこの遺跡にまつわる謎でいっぱいだった。「この廃墟の創られた時代はいつ頃か私には分からない。建造物の上の土砂の滑り具合やうっそうとした木の茂みから、おそらくある程度の事は言えるだろうが、それは不正確なものである。さらにこれを建てた民族についても現在のところ何の推測も出来ないし、住む人がいなくなった原因や時期も分からない・・・」これまでにはシャンペリオンに匹敵するような探求心に燃えて、全力でこれらに取り組む人は現れていない。誰がこれを解読してくれるのだろうか?

謎を秘めた遺跡よ

月光に散在するおぼろげな破片の上で

その全貌を辿れる者は誰ぞ

全くの夜の暗がりで

斯く言える者は誰ぞ

「ここにかつて在り、今なお在ると」

 

スティーブンズはコパンに思ったより長く滞在してしまったので、ある外交上の責務を果たすためにヴァテマラへ旅をした。キャザーウッドの方は遺跡に残って発掘作業を続けた。そそして、キャザーウッドはコパンの北西8キロのキリグアという場所で大変重要な別の遺跡を発見していた。

 

  



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